作品解説
本品は、ノルウェーの著名な銀細工師でプリカジュールエナメル（Plique-a-jour Enamel）のスペシャリスト、ヨハン・G・ケアランド(Johan G. Kjaerland)によるスターリングシルバーとプリカジュールエナメルのスプーン6本セットです。
各スプーンに"925S JGK"の刻印が施されています。 "925S"は銀含有率（純度）92.5%の銀合金（スターリングシルバー）、"JGK"は作家Johan G. Kjaerlandを意味するホールマークです。
柄の部分にはケアランドが得意とするプリカジュールを用いた複雑な透明エナメル加工が施されています。
専用箱の内側に記載されたロゴ、"H.Kristiansen guldsmed markveien 35, oslo（金細工工房 H.クリスチャンセン、
マルクヴェイエン通り35番地、オスロ）"により、本セットはオスロ所在の金細工メーカー、H.クリスチャンセンのマルクヴェイエン通り35番地の店で販売されたものと分かります。
この店は1933〜1946年の間に営業していたため、本品もその頃に制作されたと思われます。
＜プリカジュールエナメル＞
金属の下地がなく、金属枠のみによってエナメルを支える高度な技術を用いたエナメル技法。
アールヌーヴォー、デコ時代の宝飾デザイナーが好んで用いたエナメル細工の中でも、とりわけ高い技術を要するといわれ、イギリスでは「チャーチ・ウインドウ（church window）」とも呼ばれている。
フランスではルネ・ラリックらがプリカジュールエナメルを駆使した芸術性の高い宝飾品を制作している。
略歴
ヨハン・G・ケアランド Johan G. Kjaerland (生没年不詳、Norway)
ノルウェー出身。20世紀半ば〜後半にかけて銀細工、とりわけプリカジュールエナメルのスペシャリストとして活躍した。生没年は不明だが『Norsk Bestikk Silverware（ノルウェーの銀器、カトラリー）』という本によると1937年から1985年までベルゲンにて活躍、との記述がある。
H.Kristiansen社 (circa1933-1946, Oslo, Norwey)
ノルウェー出身の金細工師ハンス・クリスティアン・クリスチャンセン（Hans Kristian Kristiansen (1877-1956, Norwey)はアイナー・ニールセン工房で修行を始める。1895年、ニールセン工房廃業により幾つかの工房に移り、銀細工修行を続ける。1909年、Hval & Kristiansen工房で職人試験に合格し職人証を取得。同年9月、オスロのグリュネルロッカ地区、トルバクガータ通り12番地（Torvbakkgata 12）にH.Kristiansenという名の店舗を構える。 その後、妻のディナとともにフォルネボに定住し、その後しばらくアメリカへ渡り宝飾店を始めるための資金を稼いだ。
1933年に帰国すると、グリュネルロッカ地区、マルクヴェイエン通り35番地（Markeveien 35）に開業し、1946年まで営業を続けた。10年後の1956年没。
